もし、あの時に出会っていなかったら、
わたしたちは、どう生きてきただろうか ―


1995年に起きたオウム真理教による「地下鉄サリン事件」は、世界中を震撼させ日本の安全神話を破壊した。その後も国内外では様々な事件・事故が続き、新たな世紀は混迷を極めた10年を終えた。そして2011年。東日本大震災と福島第一原子力発電所事故が起こった年の最後の日、全国指名手配容疑者で元オウム真理教の幹部・平田信は出頭した。ともに逃亡を続けた女性との生活は17年にわたった。平田をかくまうために積み上げられた嘘。その嘘の集積で出来上がった部屋=世界には、逃亡犯である平田の現実を超えた2人の生活があったのではないだろうか。自分とは全く違う人間だと思っていた2人の日常をモチーフに、わたしたちの17年間をも思い起こさせる、限りある時間の愛の物語。




前川 × 寺十 × 木村

脚本・主演は、劇団「アンファンテリブル」などを主催する女優・劇作家・演出家の前川麻子(まえかわ・あさこ)。共演に劇団「tsumazuki no ishi」主宰の寺十吾(じつなし・さとる)。名実ともに演劇界屈指の二大俳優が映画で共演。監督は、青森県六ヶ所村核燃料再処理工場の問題を背景に人が生きることの覚悟を描いた『へばの』(09)により、ロッテルダム国際映画祭など国内外で大きな話題をよんだ木村文洋。エンディングテーマには、アン・ルイスの屈指の名曲『グッド・バイ・マイ・ラブ』(74)を、太陽肛門スパパーンの花咲政之輔が大胆にプログレッシブ・カヴァー、作品により一層の厚みを与えている。




人目を避け、息を殺して生き続ける男・浩司(寺十)と、偽りの名で社会生活を送りながら男を生かし続ける女・陽子(前川)。2011年3月11日の大震災から1年経った春。アパートの一室。その日、女はいつも通り2人分の弁当を買う。そして男に頼まれてもいない買い物をし、懐かしい歌を口ずさむ。いつもと同じようで少し違うお互いの様子。長い夜、2人の17年間の答え合わせが始まる。